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「ねぇ、いつになったら祐二は僕を殺してくれるのかなあ」

 いつものようにシキミの部屋で愛機(回転式拳銃、俗に言うリボルバーだ。弾数こそ六発と少ないが、俺にはそれで充分だし、万が一疑われたときも護身用として言い訳に出来る優れものだ)の整備でもしながらのんびりと午後のひと時を過ごしていると、そんなことを言い出した。

「……おまえは何でそんなに死にたいんだ。そんなに死にたいならさっさと飛び降りでも何でもすればいいだろ」

 それはずっと思っていたことだった。

「祐二それはちがうよ。僕は死にたいんじゃなくて殺されたいんだ」
「だったら外に行け。夜にそこら辺を歩いとけば変態野郎が誘拐ついでに殺してくれると思うぞ」

 口さえ開かなければ一応見た目はいいわけだし、こいつも。

「えー、そんなの嫌だよ。見ず知らずの奴に殺されたくない」

 なんて我儘な奴。これだからボンボンの子供っていうのは。

「だったらあいつはどうだ。ほら、お前の代理人の……」
「あぁ、黒木くろきのこと?」

 詳しく説明すると長くなるが、一番最初に俺に接触を図ってきたのはシキミではなく、シキミの代理人だとかいう黒のスーツに黒のサングラスをかけた、いかにも胡散臭い野郎だった。
 まぁ、だからこそ俺は引き受けたわけだが。シキミとは携帯越しに二言、三言会話を交わしただけだったが、もし奴本人が直接来ていたら、間違いなく断っていただろう。

「黒木も嫌。僕別に黒木のこと好きじゃないもの」
「殺されるのに、好きとか嫌いとか関係ないだろ」

 それは違うよ、とシキミ。

「だって、どうせ死ぬんだったら愛する人に殺されたいでしょう」

 金持ちの考えることはよく分からない。それが大金を積んで俺に依頼した理由だとしたら、世の中を舐めきっているとしか思えない。

「じゃあ、お前は俺のことが好きなんだ?」

 意地悪そうに聞く俺の質問に

「そうだよ。大好きだよ、愛しちゃってるよ」

 生憎、俺はいくら見た目がよかろうが、男に好かれて喜ぶ嗜好は持っていない。

「はいはい。俺とお前、知り合ってからまだそんなに経ってないのに、何でそこまで想えるんだよ」
「実は知り合ってからそんなに短いってわけでもないんだけどね」
「は、お前何言ってんの」
「ううん、こっちの話ー」

 結局にやにや笑いを顔に貼り付けたまま、それ以上シキミは依頼理由を話すこともなかった。俺はこいつのことだからどうせくだらない理由だろうと、突っ込んで聞くことはせず、愛機の手入れに専念したのだった。

――この奇妙な生活に慣れてしまって、俺はすっかりシキミという人間を警戒することを忘れていた。こいつがただ俺に殺されるのを待つだけの、大人しい奴じゃないと分かっていたのに。あの笑顔と態度にすっかり騙されていたんだ……。