次の朝、鏡に映る俺の首にはくっきりとシキミの手の跡が残っていた。
「なんてばか力だ……」
子供だと思って油断していた。まさかこれほどの力があるとは。
一方シキミはというと、俺に殺されかけたというのに何も変わらなかった。それどころか、いつもより上機嫌でにこにこしてやがる。
「なぁ、お前俺に殺されかけたんだぞ。なんだってそんなに嬉しそうなんだ」
「だって祐二が僕を殺そうとしてくれたんだよ? 今まででこんなに嬉しかったことないよ」
あぁ、そうだこいつはこういう奴だった。そもそも俺とこいつの関係は標的と殺人者。俺が首を絞めようが毒を盛ろうが、こいつは喜ぶだけで、俺が後ろめたい気持ちになる理由がないんだった。
「それにね、ほら」
シキミの首にもくっきりと残る俺の手の跡。
「お揃いの跡」
絞め殺しの跡を見て言うことがそれかよ。
「なんか僕が祐二のものになったみたいで愛を感じるんだよねえ」
鏡を見つめながら愛おしそうに跡を撫でるシキミ。
「お前狂ってるよ」
俺はこいつに出逢ってから何度思っただろう、既に口癖になりつつある台詞を呟く。
俺は自分が狂っていると思っていた。機械のように何の感情も抱かず、金さえ積まれれば人を殺していた日々。だが、それは思い違いだったのかもしれない。狂っていくことは別にどうでもよかったが、それでもこいつを見ていると、やっぱり俺は普通の人間なのだということを実感させられた。格が違いすぎる。
「うふふふ」
シキミは俺からすれば気味の悪い、何も知らない人が見たらとろけるような甘い笑顔で、同じく甘々な液体を飲む。
「……はぁ」
溜息をひとつつくと俺はこれからからのことを思った。
大金につられて軽い気持ちでこの仕事を引き受けた俺が悪いのか。どうやらこの生活はまだまだ当分続くようだ。
……まぁ、たまにはこんな依頼人や標的も悪くないかもしれない。そんなことを思いつつも俺は日課である愛機を磨き始めたのだった。