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08 部活 「発足、SOK部」

「SOK部?」
「はい」
「よく分からんが、そもそも何をする部活なんだ」
「SOK、つまり『視線を送って気付かせようの会』ですわ」
「視線を送って、ってそんなふざけた部活が認められるわけないだろ」
「どうしてですか? 私たちはただ純粋に愛する人を見つめていたい、叶うことならばその視線に気付いていただきたいと思っているだけなのですよ」
「駄目だ、駄目だ。冗談も大概にしろ。そんなことより三崎塚、お前今日の授業態度はなん」
「……五月十三日金曜日、十九時二十八分。同僚の佐々木先生を誘い、学校の最寄駅から徒歩七分の場所にある、教師御用達の居酒屋『田中』にてビール三杯と日本酒一合をたしなみつつ、焼鳥のモモとハツをタレで二本ずつ、カワを塩で一本注文。およそ三時間ほど現代教育の在り方ぶついて語る」
「な、何を言っているんだ」
「佐々木先生と別れた後、行きつけの秘密倶楽部『女王様と犬』にてお気に入りのシズカ嬢を指名」
「お、おい!」

 岩井の顔が見る見るうちに青ざめていくのも気にせず、美崎塚は続ける。

「そしていつものように『どうかこの卑しい豚めにお仕』」
「うわああ、やめてくれっ」
「あら、まだ続きがありましてよ。次の日も、その次の日も、ね」
「な、何でお前が知っているんだ」
「先程申し上げましたでしょう? SOK、またの名をSWL部。正式名所“Stoke Watchiing Love“。愛のストーカーウォチング部だと」
「ぶ、部員は! 部として認められたいなら、最低でも五人は揃えてもらわないと」
「もちろん、存じ上げておりますわ」

 美崎塚がぱちんと指を鳴らすと、どこからともなく白い煙が流れ込んできた。

「なんだ、火事か!」

 突然の事態に慌てふためく岩井をよそに、勢いよく開け放たれた扉から四人の少年少女が現れた。

「SOK、一人目の部員。全国統一模試にて十四年連続トップを取り続け、一般教養に留まらずありとあらゆる知識を持ち合わせ問題を解決に導くその能力の高さから、総理大臣すら直々に相談に来るという、生きた学問神こと、三年A組、御宝風奇」
「貴方と話すのは時間の無駄です」

「陸上、球技、水泳、スポーツと名のつくものすべてにおいて敵うものは存在しない、神をも追い越す瞬足、二年B組、塔楼江」
「前から思ってたんだけど、先生って本当鈍臭いよね!」

「幼少期より美術への才能をいかんなく発揮し、十七歳ながら既に創る作品は億をくだらない、神の手の持ち主、二年E組、東雲いくら」
「……あたし、あんた、きらい」

「老若男女を虜にし、その愛らしさのあまり一ヶ月に百回誘拐されたという、神に愛されすぎた少年、一年C組、柏木阿比留」
「やっほー。みんなのアイドル、アヒルくんだよっ★」

「そして、この私、美崎塚恋子を含め、五人ちょうどです」
「何でまたこんな偏ったメンツばかりを」
「これで、問題はありませんよね?」
「こ、こ、顧問は……顧問はどうするんだ!」

 美咲塚はその美しい顔が更に魅力的に見えるよう、計算しつくされた微笑を浮かべ

「それはそれは、高尚なご趣味をお持ちの岩井先生に、是非ともお願いしたく思いますの」
「……どうしてお前たちみたいな奴らがこんなくだらない部活を立ち上げるんだ」
「そんなの決まっていますわ」

 形のいい唇に人差し指を当てて

「恋、をしているんです。私たち」

 そう、美しく可憐に微笑んだという。

 こうして、活動期間二年という短い期間ながらも、数々の伝説と爪痕を残し、今もなお語り継がれているという、SOK部が発足されたのであった。